優雅な青花磁器

元代の青花磁器

 青花磁器、つまり染付け磁器は中国の陶磁器の中でも貴重な伝統芸術である。景徳鎮の彩色磁器の先がけであって、影青磁器(青白磁器)につづくものである。青花磁器は昔から官窯にしても民窯にしても衰えることなくつづき、彩色磁器の中ではずっと重要な地位を占めてきた。その彩色には、ゆかしさ、すがすがしさといった美感があり、この点は意匠をこらした貴重の芸術品にせよ、生活を飾る日用品にせよ同じことが言える。民窯の中では、青花磁器の生産がとりわけ多いが、これはその作り方が簡単で、焼成温度範囲が広く、大量生産が容易なためコストは安くなる。安く、良いものとなれば、民衆から望まれるのは当然のことである。磁器が焼かれ始めてから現在まで、生産量の多いこと、流行期間の長いこと、影響の深いことなど、青花磁器にまさる磁器はないであろう。

 青花磁器は元代には完成されており、年代銘の入った青花磁器や近年になって出土した青花磁器を見れば、元代における青花磁器の輝かしい成果というものを知ることが出来る。

この時から青花磁器の基本的色調というものが定まった。その色調は釉色と顔料によって反映されるもので、元代青花の釉薬には大部分、影青磁釉色が使われ、青花の色は鮮やかな青である。故宮博物院にある元代の青花龍水文八面梅瓶は、影青刻花による龍文と青花による水文が一体となって特別な美的効果をあげている。元代の景徳鎮の工匠はこうした青色を巧みに使い、あたりを圧倒するような大型磁器に文様をいろいろな手法によって飾り付けている。

 元代青花磁器の装飾上の特徴は主に次の三点に表現される。

一 文様が高度に密集していて、青が多く白が少ないという色彩効果を生んでいることである。磁器の細かな各部分を線分で区切り、縦方向に密集した装飾帯を作り出しているが、これは普通、「各段階装飾」と呼ばれている。それと同時に、その装飾帯の中でもう一度、文様を密集させて、横方向に密集装飾を構成させると、青色はほとんど磁器全体に拡がる。たとえば元・至正十一年の銘入り青花龍水文象耳大瓶では、口の縁から底までが八段の装飾帯に分けられ、各細部がはっきりと区分されている。そして、同時に格段の装飾帯毎に青と白の分布を考慮し、文様を密集させている。磁器の各部分と装飾帯を小面積に区切るこうした方法によれば、文様を高度に密集させて、青が多く、白が少ない彩色効果を十分に発揮させることが出来る。

二 筆遣いの重厚さで、生き生きとした文様が中国画の筆法から生まれている。元代の青花磁器の魅力はここから生じているともいえるだらう。文様の内容としては人物、動物、花鳥、草虫、魚水、唐草および各種の図案がある。青花の絵はちょうど宣紙の上に絵を書くように、素地の上に直接描くので、線の軽重、遅速、方円、筆止め、剛柔、太さなどがいずれも中国画の筆法と同じになる。たとえば元の青花鳳凰唐草文瓢箪瓶では、一対の鳳凰が花の中で舞い、轡虫(くつわむし)と蟷螂(かまきり)が草の間に置かれている。力強い筆で可愛らしく描かれているが、とりわけ轡虫の触覚には「遊糸描」という中国画の細かな筆法が使われていて、その高度な技法に感嘆させられる。また中国画の墨の効果も配慮されていて、釉薬と顔料が焼成する中で変化する作用を巧みに応用し、点状に滲ませる効果をあげている。

三 図案形式による装飾構成である。青花の文様には中国画の技法をとりいれているとはいえ、完全に中国画を模倣しているというわけでもなく、構図や形の処理では図案化や装飾化が行われている。これは工芸品という制約、陶磁器装飾としての特殊性によってもたらされるもので、そのため、文様の構成には連続的な唐草、散点、直立、転換といった図案形式が多くとりいられている。文様の効果は平面的で、立体的な遠近関係は表現されていない。


 明代の青花磁器

  青花磁器は明の永楽・宣徳年間になって一変し、青花磁器の黄金時代があらわれた。芸術的風格は元代の力強い豪放さから清新典雅なものになったが、主な原因は二つある、

第一は、磁器が質的に向上したことで、この時期の青花磁器は素地が白く、良質になり、釉薬が透明で艶やかになり、顔料が一層鮮やかになっている。それに加えて素地が次第に薄くなって、磁器の質の美しさを高めている。中でも圧手杯は永楽年間の典型的な製品になっている。

第二は、題材と芸術的手法の新しさである。永楽・宣徳年間の題材は桃、柘榴、レイシ、枇杷、葡萄など各種の果物。牡丹、梔子(くちなし)、蓮、椿などの花。梅、蘭、竹、菊、芭蕉の葉、唐草、それに図案模様などがほとんどである。こうした題材には、当時の悠々自適の生活や清新俊逸の風俗が反映されている。大自然の中の美しく愛すべき果物や草花であり、こうした叙情的な題材を表現するために、新しい手法がいくつか採用されるに至った。一つに青と白の対称性を明確にすることであった、元代の青花のように密集したものは影をひそめ、青と白の分布にはバランスが考慮され、線は軽く、流動感にあふれ、飾りは明朗で美しくなっている。明・宣徳年間の青花葵弁口折枝花果文碗などがその例である。二つめに、文様を描くのに写実的傾向の手法がつかわれて、花や葉の部分に空白を残したり、わずかに色付けして、文様の形象をごく自然にし、しかも装飾性をもたせる。

 三つ目に、水墨画のように、釉薬や顔料を滲ませていることにより、濃淡をもたらすようになった。このような釉薬と顔料のごく自然な融合もこの時期の特徴であった。

 成化年間以後になると、青花磁器の風格は再び変化する。それはより淡く、透きとおった風格で、文様の線ははっきりし、色には濃淡の変化が見られる。これは絵付け法に変化が起きたことである、この時期には水を混ぜる方法が採用されていたが、文様の形象は輪郭線によって表現され、色彩の濃淡は水を混ぜて作り出しており、これがこの時期の青花磁器の風格の特徴を形成している。

 嘉靖・万暦年間の青花磁器にもはっきりとした風格上の特徴がある。

この時期の青色は濃く、鮮やかであるが、その鮮やかな青の中にかすかな赤紫色が感じられる。文様の線は大まかで、形式にこだわることなく、自由に描かれている。文様の色彩には濃淡の差が少なくなり、濃いめになっており、その濃さは線の色の濃さに近くなって、独特の風格をだしている。文様の題材は幅広く、百子図、龍鳳、魚藻、草花、吉祥図案などで、いずれもこの時代の特色があらわれている。

万暦年間を過ぎると構図も文様も粗雑になり、官窯の青花磁器は下り坂をたどり始めることになる。しかしその一方で注目に値するのは民窯の青花磁器である。とりわけ明代の民窯青花は詩情豊かで、想像力が発揮されている。文様図案の題材も幅広く、人物、花鳥、果実、雲龍瑞獣、山水遊魚、吉祥図案などさまざまなものがあらわれている。これらの青花文様は生き生きと描かれており、文様の意図に奥深さが感じられる。わずかな線描きによって、万物を天地空間にすえ、自然の妙を描き出し、内心にこもる感情を表現している。こうした風格は清代から現在に至る民間青花磁器の中にもずっと生かされ続けてきている。

清代の青花磁器

 清代の磁器は康煕、雍正、乾隆の三代に最高潮に達したといえる。青花磁器に限っていえば、康煕年間で原材料の精製、製磁技術と絵付け技法の向上によって、この時期の青花磁器は次のような特色をもつ。

 第一は、素地や釉薬が白さを増し、丈夫になり、顔料が鮮やかになったこと。

 第二に、文様の線がすっきりし、青色の濃淡がはっきりと分かれ、一筆の中でも濃淡の違いが感じられるようになったこと。雍正年間の青花は明の成化年間のものとは少し違って、薄い顔料で文様の輪郭線を描いており、顔料に水をまぜる混水効果は採用せず、すんだ釉色や良質の薄い素地とあいまって、異なった風格をつくりあげている。乾隆時代には古いものを模倣することが流行して、造形の面でも、装飾の面でも新しさがなくなった。

現代の青花磁器

 新中国成立後、景徳鎮の窯業は再生し、長い間の青花磁器の経験が総括され、革新と創造がつづいた。青花磁器の焼成に石炭が使われるようになったのは、景徳鎮始まって以来の大変革である。青花用移し絵が出来るようになったのも、景徳鎮青花磁装飾における大きな成果の一つにあげられる。

釉下彩磁器

 釉下彩磁器の類には、青花のほかにも釉裏紅、青花玲瓏などいろいろあるが、簡単に紹介すると、釉裏紅磁の中で現在知られている最も古いものは、元代至元4年(1338年)銘のものである。造形と文様の風格は同時代の青花磁器とよく似ていて、使っている色だけが違う。元の末から明の初期にかけて、釉裏紅磁器が増え、康煕年間の釉裏紅磁は色も鮮やかで、文様の線が細かくはっきりしている。その風格は水を混ぜない青花の薄描きに似ている。また釉裏紅は青花と併用されることが多く、「青花釉裏紅装飾」と呼ばれている。この装飾法はあとまで受け継がれ、景徳鎮磁器の伝統的製品ともなっている。

 青花玲瓏というのは青花と玲瓏(透かし彫りの一種)を組み合わせた装飾の磁器である。素地にさまざまな透彫りをして、その彫りぬいた穴を透明な「玲瓏釉」でうめ、更に青花装飾を加え、釉薬をかけてから、高温で一度に焼き上げる。彫り抜いた部分が透明で、新しい感覚を与える景徳鎮の優れた伝統的な製品である。

 釉下彩磁器は素焼きした素地あるいは釉をかけた生素地の表面に、各種の釉下顔料で文様を下絵付けして、その上でもう一度釉をかけて、高温で焼き上げるのである。その特徴は磁器の表面が光沢を持ち、色が透きとおり、水をたたえたような感じになる事である。色は時間が経過しても落ちることはない。なお、この釉下彩磁器の始まりは唐代の長沙銅官窯といわれる。

 これらのすぐれた製磁法は、昔から景徳鎮の職人が次々に経験を積み重ね、作り出してきた技術なのである、製作者の個性や、才能、技巧というものがあらわされている。もちろん、芸術は技術ではないが、芸術、とりわけ陶磁芸術はやはり技術をとうして、表現されるものである。したがって、伝統的な製磁工芸を理解することが、陶磁芸術を研究する上で役立つことは論をまたないであろう。